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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)3096号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人佐々木の弁護人谷口一長および被告人両名の弁護人高畑二郎の各上告趣意は、末尾に添えた別紙記載の通りである。

(一)  谷口弁護人の論旨第一点および高畑弁護人の論旨第一点の要点は、原判決は被告人らが川名清方で雇人吉岡賀代を脅迫して強盗を働いたと言うが、吉岡は川名の雇人でない別世帯の者であるから、被告人らの行為は吉岡方における強盗未遂と川名方における窃盗とである、というのである。しかしながら原判決が証拠によって認定したところによれば、被告人らは当初から川名方を目指しており、吉岡方の物を盗むことは考えておらず、そして吉岡が住んでいたのは川名方と別家屋ではなく、母屋から二間きり離れていない附属建物なのである。それゆえたとい吉岡が正確な意味での川名方の雇人でないにしてももし盗賊の侵入に気附いたならばそれを妨げまた母屋に急を報ずべき位置に在った者であるから、それを脅迫してその抵抗を封じ障害を除いた上で川名方の金品を奪ったのであって、吉岡方では強盗未遂、川名方では窃盗、という観方をしなかった原審の判断はむしろ自然である。高畑弁護人は原審においても同趣旨の主張を為し、原判決はその主張を排斥する判断を示しているが、その判断は示された証拠に合致している。要するに両弁護人の所論は結局原判決の事実認定を非難するに帰し、論旨は理由がない。

(二)  高畑弁護人論旨第二点は、原判決は「川名清方に到り同人不在中同家雇人吉岡賀代に対し」と説示したが、当時同家には他の家人が居たのであるから、右の説示は事実および証拠に副わないと非難する。しかし原判決は吉岡以外の家人が居なかったと説示しているわけでもないし、また他の家人の在不在は本件犯罪の成否には何らの影響もないことであって、論旨は理由がない。

(三)  高畑弁護人論旨第三点は、原判決が証人吉岡および川名の供述そのものでなく調書の記載を証拠に採っていることを非難する。しかし原審の最終の公判期日は昭和二四年九月八日の第五回公判であるが、その期日において公判手続が更新されているのであって吉岡の証言は第四回公判期日に述べられたものであり、また川名の証言は検証現場におけるものであるから、いずれも調書上の記載が証拠となる。従って最終回の公判期日ではそれらの公判調書や証人訊問調書について証拠調をしているのであって、原判決が証人の供述そのものでなくその記載を援用したのは当然であり、論旨は理由がない。

(四)  谷口弁護人の論旨第二点は、被告人佐々木が違法に所持したとされる本件の短剣につき、被告人の供述は「私が所持した」というのではなく「私方にあった」というのであり、同人は未成年者なのであって問題の短剣はその母が親権者として管理していたものだ、と主張する。しかし本件は正当の事由なくして刀剣を事実上支配したことを問題とするのであって、親権者による未成年者の財産の管理とは別問題であり、また原審が援用している被告人山上の供述は、被告人佐々木がその短剣を自由に処分し得る関係にあったことを示すものであって、その論旨は理由がない。

(五)  高畑弁護人の論旨第五点は、被告人らの刀剣所持と強盗行為とは手段結果の関係に在るのだから牽連犯として取扱うべきであるのに原判決がこれを併合罪として処断したのは法令の適用を誤ったものだ、というのである。しかし被告人らの刀剣所持は犯行の前後にわたるものであって、強盗の手段として所持したのではなく、かつ刀剣の所持と強盗行為との間に通常手段結果の関係があるというわけではないのであるから、原審が本件に刑法第五四條を適用せずして第四五條を適用したのは適法であり、論旨は理由がない。

(六)  高畑弁護人の論旨第六点は、原判決は被告人佐々木の所持した刀剣を没収する旨を言渡したが、その刀剣の所有権が被告人以外の者に属しないとは断定出来ない、と主張する。しかし右の刀剣は佐々木の亡父の遺品だというのであるから、その所有権は佐々木に存することが認められるのであって、原審も証拠によってこれを認めたものと思われる。論旨は結局原審の事実認定を争うものであって、上告の理由にならない。

(七)  谷口弁護人の論旨第三点および高畑弁護人の論旨第四点ならびに同第六点後段は、いずれも量刑不当の主張であって、上告の理由にならない。高畑弁護人の論旨は、原判決が被告人両名に対し刑法第二五條を適用しなかったのは憲法第一四條違反であると非難するが、犯情の類似した犯人間の処罰に差異があるからといって憲法第一四條に違反するものでないことは、昭和二三年(れ)第四三五号同年一〇月六日当裁判所大法廷判決に示すところである。

よって、旧刑訴法第四四六條に従い、主文の通り判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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